本日京都国立近代美術館にて「パウル・クレー展―おわらないアトリエ」を鑑賞しました。この展覧会は2011/5/15まで京都国立近代美術館にて開催された後、東京国立近代美術館で2011/5/31から7/31まで開催されます。
いま詳しい内容や批評を読みたくないという人はここから下は読まないでください。
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パウル・クレー(1879-1940)はバウハウスでも教えていたスイス生まれの画家で、これまでにも度々日本で展覧会が開かれてきたが、今回はクレーの作品がどのように作られてきたか、その特徴的な制作プロセスに焦点を当てた展覧会であった。
会場へ入るとまず自画像が数点並べられていた。そして「ミスター・ソール」という名の絵には裏に自画像が描かれているのだがこれが額を立てたような展示台で表と裏を見られるようになっていた。表と裏に描かれた作品はこの後まとめて出てくる。
そして展覧会は6つの章に分かれた構成となっていた。
まず「現在/進行形―アトリエの中の作品たち」の章ではクレーのアトリエの写真と、作品の展示。クレーはミュンヘン、ヴァイマール、デッサウ、デュッセルドルフ、ベルンと生涯に5つの街にアトリエを構えるが、それぞれのアトリエと作品の制作年を一致させて展示させているのかと思ったらそうでもなくてこの章の意図がいまいちわかりにくいものになっていた。作品は色とりどりの四角形で埋められた「花ひらいて」が、揺れる花のように見えて目をひいた。この絵の裏にも違った作風の絵が描かれている。また「山への衝動」の太く力強い線も印象に残った。
次に「プロセス1:写して/塗って/写して|油彩転写の作品」は、クレーが独自に編み出した技法による作品を展示していた。素描を黒い油絵具を塗った紙の上に置き、描線を針でなぞって転写するという方法である。「船の凶星」は船をモチーフにした独特の世界が感じられ、素描だけでも見るに堪えるが、転写→着色すると線がくっきり出て一層よい。着色もいい色が出ていた。「バルトロ:復讐だ、おお!復讐だ!」もくっきりした線が面白く、足の赤色が効いていた。また「蛾の踊り」は青いグラデーションの着色が効いていて神秘的であった。
続いて「プロセス2:切って/回して/貼って|切断・再構成の作品」では、とりあえず描いた絵を切断し、配置を変えて再構成した作品を展示していた。「〈卵のある〉」は切ってつないだことによる空間の微妙なずれが面白い。また「E 附近の風景(バイエルンにて)」は切断された2枚の間にもとの絵にも使われている色があることによって違和感なくつながっている。
「プロセス3:切って/分けて/貼って|切断・分離の作品」では切断した一部分を作品として採用したり、複数の作品に分けた作品を展示していた。この章では作品のそばに切断前の図版も添付してあった。「カイルアンの眺め」「カイルアン、門の前で」は元の絵を上下に切断した2作品だが透明感があって美しい。「飛行機の絵の素描」は切られた上側を展示し、図版で上下をつなげて見せていたが、私は下側の方がにぎやかで好きだ。「緑の教会の塔のある都市計画」はレンガが縦横無尽に広がっているのが面白い。
「マネキン」「なおしている」は切り離したことによって単純で太い線としっかり塗られた色がより生き生きとしてみえる、分離の効果があらわれている作品だと思った。
「プロセス4:おもて/うら/おもて|両面作品」では作品の裏に何かが記されていたり描かれていたりする作品を展示していた。例えば鮮やかな色面で構成された「都市的構造」は裏に週刊誌の広告が貼ってあり、点描を主体とした「調整された豊穣」は裏にはもう少し大きな四角形の点描の絵が描かれている。また「子供の肖像」のように裏にも子供が描かれているのもあって、クレーの両面作品は表と裏で意味の上で関連づけられているように思える。
つまり表裏一体で1つの作品にもなっていると言えよう。
そして最終章「過去/進行形―“特別クラス”の作品たち」はクレーが“特別クラス(Sonderklasse)”と名づけたカテゴリーに入れた作品群で、クレーが模範的作品と考えて手元に遺した作品群である。この中では題の通り不思議な植物が生える世界に目を奪われる「幻想的なフローラ」、人や鳥などが生き生きと描かれた「山のカーニバル」、これまたタイトルにふさわしい直線的なフォルムと茶色の渋い色彩の「結晶化」、曲線的な描写に赤と緑の対比が印象に残る「双生の場」が私は好きである。
クレーの作品は、朗らかな歌が聞こえてきそうなもの、重厚な雰囲気のもの、静寂を感じさせるものなど、多種多様である。これらの作品をクレーはリスト化し、そのリストには題名だけでなく詳細な制作方法も記したという。クレーにとっては制作過程そのものが大事であり、そして絵をどう扱うかが大事であり、それらはみな新たな創作へとつなげ続けるためになされたのだろうと想像する。
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